「そうか。そうか。
じゃあ、そうしたら、このカメラをお前の手で優菜に渡してくれ。
それと、こっちは…………
もし、お前が、優菜の“気を引けた”ら。」
そう、一さんはイタズラっぽく笑うと
俺の手の上に『キンモクセイ』とひとつの封筒を丁寧に置いた。
「じゃあ、頼んだよ。聖………。」
そういった瞬間、
一さんは膝から崩れ落ちた。
一さんは、屋上の端の低いフェンスを苦しげにつかみながら、激しくむせる。
「一さん!一さん…っ!!しっかりしてくださいっ。」
「聖、俺は、お前を………」
「もう、しゃべらないでいいですから!!」
「愛してるよ。」
………………っ。
いつもそうだ。
一さんはいつも、
いちばん欲しい言葉を、いちばん欲しい時に、俺に言ってくれる。
…………………………―――
涙で視界がぼやけた、一瞬のうちに
『キンモクセイ』が、俺の手からすべりおちた。
手を伸ばすも、
それは、俺の手をかすめて下へ下へと落ちていく。
すべてが、スローモーションに見えた。
もう、だめか、と諦めかけたその時…………―

