「………わかりました。」





俺がそう言うと




「ありがとう。聖ならそう言ってくれると思ったよ。」





一さんは目尻を下げて、そう、嬉しそうに優しく笑った。




眉を下げ

目尻を下げ

こまったように

でもどこか幸せそうに



あたたかく笑う。




それが、一さんの、いちばんの笑顔だった。












「それと………これを、頼むよ。」



そう言って、一さんが、高級そうな革のカバンからだしたのは




「………キンモクセイ。」




『キンモクセイ』。


一流カメラマンである彼の、右腕となっている仕事道具。





伝説と謳われたカメラマンの

一眼レフカメラだった。






「これを………?」


一さんは、また、あたたかく笑った。





「そうだ。これを、優菜に渡してくれ。

………こんなものしか形見に残せない父親なんて、情けないな。」






一さんは、そう言って、少し自嘲気味に笑った。









「そうだ、聖………。

キンモクセイの花言葉は知ってるか?」







いきなりの、一さんの問いに俺は首をかしげた。





「『あなたの気を引く』だ。」





一さんのその言葉に


心が見透かされたように






―ドクン





と、跳ねる。






「俺は、もともと、優乃の気を惹きたくて、写真を始めたんだ。

撮ってやると、とても幸せそうに笑っていてねぇ。

俺も、嬉しかったよ。



やっとやっと、長年の想いが届いて、優乃は俺の“奥さん”になった。

するとすぐに優菜も生まれてね…。

しあわせだったよ。

でも………」













あぁ。俺は、


一さんが、次に何を言おうとしているのか、わかってしまった………。