そういえば、堅くんも夏祭りの金魚すくいでだいぶ掬ってたなって思い出した。
「ねえ、堅くんの金魚は元気?」
「金魚?」
何の脈略もなく訊いたせいか、堅くんも訳がわからないって顔をしてたから、説明を付け足す。
「去年の夏祭りでたくさん掬ってたよね? 金魚すくいの金魚」
「あ、それか。ん~10匹以上掬ったけど、今は2匹しか残ってないよ」
「そっかぁ……」
伊織さんが聞いたら憤死しそうだから、絶対に黙っておこうと思う。いや、別に伊織さんが他の金魚まで無条件に溺愛するとは思えないけど。いろいろと……ね。
「うちにはまだいるよ。赤の出目金と黒の出目金。伊織さんがかわいがってる」
「あ~あのおじちゃん、すんげえ金魚Loveだもんな」
堅くんが思い出したのか、カラカラと笑いながら言ってくださいました。
「太郎と花子って金魚に名前付けて、周りドン引きしてるの気づかないくらい金魚しか見えてなかったじゃん。あん時碧姉ちゃんも眼中になかったんじゃね?」
「おほん……いや、まあ……ね」
大人の威厳を保とうとして失敗。堅くんの指摘はごもっともなだけに、ちょっぴりとだけ寂しい。
「碧お姉ちゃんもさ、もっと甘えりゃいいじゃん」
聞き慣れた声がして堅くんとともに振り向けば、いつの間にか心愛ちゃんがおはる屋の前に立ってた。
そして、なぜかにんまりとチェシャ猫のように笑う。
「碧お姉ちゃんも伊織さんも、せっかくソーシソーアイなんだから。もっとくっつくといいのに、ね! 堅」
いきなり堅くんの腕を取った心愛ちゃんは、彼に抱きついてべったりと体を密着させる。堅くんはギシッと固まり、私はぽかーんと間抜け面でしたでしょう。
い、今どきの小学生って……積極的なんですね。



