(春だから……かあ)
店番をしながら、時折飼育本を眺める。とはいえ月末に近いから、伝票整理も忙しい。
おばあちゃんは計算が苦手だ、って絶対手を出さないから。私がやらないと。
一生懸命に電卓を叩いてると、入り口から懐かしい声が聞こえて顔を上げれば。詰め襟の制服を着た堅くんがそこに立ってた。
「堅くん! 久しぶりだね」
「おっす。碧姉ちゃん、相変わらず忙しそうだな」
「そりゃ月末だからね」
いつもと変わらないやり取りだけど、堅くんは一ヶ月以上ぶりにおはる屋に現れた。たぶん、中学に進学したからだと思うけど。心愛ちゃんの危惧が当たり、めったに来なくなってた。
「こちらはいいけど、心愛ちゃんとちゃんと遊んでる?」
私が彼女のことを持ち出せば、突然堅くんの顔がパッと赤くなる。照れくさいのか顔を手のひらで隠して、急に言葉少なになった。
「……心愛のことは……別に、いいだろ」
「そう?心愛ちゃん寂しがってたよ?堅くんとまたここでアイスが食べたいって。ソーダアイスを半分こするんだよね?仲がよくてうらやましいなあ~」
私がそう堅くんをからかえば、彼はますます赤くなって耳まで染まる。
ふふふ、可愛い! なんて、悪いお姉さんになっていたのは内緒です。



