「え……」
早いと言えばあまりに早い。だって、美鈴ちゃんを預かり1日くらいしか経ってないのに。やっぱり葛西さんがすごいのだと思うけど。
(たぶん、葛西さんはくるみさんとのイチャイチャタイムを確保するために動いたんだよね)
あの腹黒い笑みを思い出してぶるりと背中を震わせる。この後、彼が腹いせを伊織さんにすることは間違いない。
それより、と私は伊織さんを見上げる。彼は眉間にシワを寄せて難しい顔つきになっていたから、もしや良くない結果なのかと想像した。
伊織さんの子どもという線は……ない。私は伊織さんの話を信じるから、きっとそうじゃないんだと思ってる。
「……関連会社の取引先に、最近産休を申請した結城 美里という事務パートの女性がいたそうだ」
「え?」
「その女性は2年前に雇用されたようだが、数ヶ月後からなにか悩んだふうだったと……同僚が訊けば「とある会社の重役に迫られ困っている」とこぼしたそうだ。取引先の社長ということまで聞いたそうだが……」
言葉を濁した伊織さんはおそらく私に配慮してくれていると思う。だけど、私はそれをハッキリと口にした。
「それが伊織さんということになっているという訳ですね」
「……ああ、だが」
「解っています、伊織さんはそんなことをする人じゃないって。だって、あんなにも女性へ不信を持たれてましたからね」
苦虫を噛み潰したような顔の伊織さんに、私はにっこりと笑って“私は伊織さんを信じます”と告げる。
だって、去年の家族旅行で伊織さんはあの家政婦に付けられたトラウマのせいで、どれだけ女性不信なのかを話してくれた。そんな彼が女性を誘惑し、その場しのぎの快楽を貪るなんてするはずがない。
経験が5年ない、というのはきっと正しいんだ。



