契約結婚の終わらせかた番外編集






基本的に私の生活パターンは1年前とそう変わらない。


おばあちゃんの用意してくれたごはんを食べて、昼から夕方5時まではおはる屋で店番をして、近くのスーパーで買い物をしてから帰る。


帰る先がマンションからおはる屋の隣にある新居に変わったことが、変化と言えば変化だけど。





「ねえ、おばあちゃん。金魚って何にもないのに体が膨らむものなの?」


本をパラパラ見ただけじゃわからなかったから、お昼ご飯の時に人生経験豊富なおばあちゃんに訊いてみた。

ちなみに、今日のメニューは鯖の味噌煮とふろふき大根にほうれん草のお味噌汁。やっぱりおばあちゃんの味はほっとする。


「知らないよ。あたしゃ魚なんざ飼ったことはないからね」


おばあちゃんはきっぱりばっさりと、私の疑問を両断する。確かにおはる屋では猫すら飼ったことはないけど。


「伊織さんが心配してるんだ。去年の夏祭りで掬った出目金の様子がおかしいって」

「ふん、おおかた春だからじゃないのか」

「え?」


おばあちゃんは箸を止めることなく、鯖を綺麗に骨から剥がしながら呟く。


「あたしゃ魚の生態なんざ知らないがね。暖かくなるこの時期、人間も動物も頭がおかしくなるもんだろ」

「頭がおかしく?」


たしかに……日もぬるめば変態さんの出没は増えるって聞いたことはあるけど。それとおばあちゃんの言わんとしてることがわからない。


「春で浮かれるのは人間だけじゃない。生き物も一緒さ。命を繋ぐためにも必要なことさね」


パクリ、とおばあちゃんは最後のひときれを口に放り込んだ。