契約結婚の終わらせかた番外編集




「まぁあ、かわいらしい赤ちゃんねえ」


50を少しだけ過ぎたくらいの中年女性が、にこやかにベビーカーを覗いてくる。訊かずとも一方的にあれこれ話してくれたので、初めて生まれるお孫さんの為に娘さんと買い物に来たのだと知った。


「お父さんに似てるから、将来きっと美人になるでしょうねえ。うちの娘は普通だけど婿はまあまあだから、ちょっと楽しみだけど」

「いえいえ。きっとかわいらしい赤ちゃんですよ」


おばちゃんのマシンガントークに相づちを打つのが精一杯で、30分ほどしてから娘さんが慌てて引っ張っていった。お腹が大きい娘さんは、恐縮しながら頭を下げたけど。いいですよ、と微笑み返す。


(初めてのお孫さんなら、嬉しくなるのも当たり前だもんね)


おばあちゃんも、私に赤ちゃんが出来たらああいうふうに喜んでくれるかな? と考えてみるけど。あのおばあちゃんが手放しで喜ぶ姿が想像できない。


(一応、喜んではくれそうだけど)


それより、早く美鈴ちゃんのベビー用品を買わなきゃと顔を上げた瞬間、え? と目を疑った。


……伊織さんが。


これだけ緩んだ顔ができるの? と思うくらい、締まりのない顔をしてましたから。


「聞いたか、碧。おれに似てるとか……やはり碧とおれの子どもじゃないのか?」

「私、生んだ憶えはありませんってば」


というか、美鈴ちゃんが伊織さんに似てる? 赤ちゃんに接した経験があまりない私はよくわからなかったけど、ベテランさんからの指摘に嫌な予感で胸がざわついた。