「ベビーベッドくらい買うか」
「え? でも……場所取りますよ?」
「これからまた使うんだ。1つあっても困らないだろう」
「……」
赤ちゃん用品店に到着して、店舗にあるベビーカートに赤ちゃんを乗せながら伊織さんがそんなことをおっしゃってますが。
なぜ、また使う前提なんでしょうか?
そりゃあ、私だっていつかは伊織さんの……あ、赤ちゃんが欲しいとは思ってるけど。今は目の前の赤ちゃんにいっぱいいっぱいだし。この子が無事にお母さんの元に戻れたらって思う。
赤ちゃん……美鈴ちゃんは起きてからミルクを一度飲んだ後、特にぐずることもなく車に乗って連れてこれた。本当はチャイルドシートが必要だけど、今回はごめんなさい。私が抱っこしてました。
「チャイルドシートにもなるベビーカーも必要だな。離れて泣かれても困る」
「そうですけど……」
あれれ? 何だか伊織さんの方がずいぶんとノリノリで、私はぽかーんとしてしまいますよ。
お母さんが判るまで美鈴ちゃんを責任を持って預かるつもりではあるけれど、せいぜい数日のことと考えてた。お母さんが見つかっても、彼女の問題が解決しなきゃ美鈴ちゃんは戻れない。それでも1ヶ月は居ないだろうなと思うけど。
だから、そんなにあれこれ揃える必要があるのかな? って考えてしまう私はケチなのかな?
伊織さんは私たちに赤ちゃんができること前提に張り切って探してる。経済的に言えば彼の収入でベビー用品を買い込むのは可能だし、置き場も困らない。
やっぱり……伊織さんはそれだけ子どもが欲しいって思ってくれてる。それに気づいて頬が熱くなり、ベビーカーを押した伊織さんを追いかけた。



