「ふぎゃあん!」
「な、何だ? 量は足りてるだろう……わっ!」
赤ちゃんがけぷ、けぷ、とえづいた後にミルクを吐き戻した。どうやら空気まで一緒に飲み込んだらしい。
(あ~目を離しちゃダメだったな)
ちょっとはご機嫌でミルクを飲んでたから、安心して伊織さんに任せていたんだけど。やっぱり慣れない授乳では勝手がわからないよね。
「ごめんね、苦しかったよね」
タオルで濡れた顔や服を拭いてると、伊織さんは憮然とした顔でふてくされてた。
「おれなりにやってみたが。不機嫌に泣かれた上、こんな目に遭って怒られたんじゃ割に合わない」
大の大人で社長さんなのに。赤ちゃん相手にまるで子どもみたいにすねて、思わず噴き出してしまいました。
「笑うな」
「だ……だって。伊織さん、嫌がってもちゃんと悩みながら一生懸命やってくれてたんですね」
今度は私が抱き上げて哺乳瓶を持って授乳する。涙目のままんくんく、と飲み始めた赤ちゃんは可愛らしくて思わず頬が緩む。
赤ちゃんに自然に微笑んでいると、伊織さんがぼそっと呟いた。
「……いいもんだな」
「え?」
伊織さんが何を言ったか聞こえなくて顔を上げると、彼は何とも言えない優しい笑顔で。ドキッと心臓が跳ねた。
「おまえがそうやって赤ん坊を世話してるのは……」
「伊織さん?」
パチパチと目を瞬いていると、伊織さんはこう告げてきた。
「その赤ん坊が、おれと碧の子どもだったら良いのにな」



