契約結婚の終わらせかた番外編集




「あ、駄目ですよそんな抱き方。ちゃんと頭を上にしてください。それから腕はこうして……」


育児書にあった抱っこの仕方を手を添えて教えると、伊織さんは「は? 抱き方に違いがあるのか。面倒だな」とぼやいた。


そりゃあ男性からすれば面倒なだけだろうな、ギャン泣きしてる他人の子どもなんて。可愛さの欠片もなくて、五月蝿くて鬱陶しいだけに違いない。


だけど、だからこそ敢えて私は伊織さんに赤ちゃんを託した。


「そうそう、そうやって頭を支えて……利き手でミルクをあげてみてください」

「碧がやればいいだろ」

「それじゃあ実際にパパになった時に困りますよ? 予行練習と思って、頑張ってみてください」

「……あ~……わかった! わかったからそれを寄越せ」


伊織さんは渋々椅子に座って赤ちゃんの頭を支えると、私が差し出した哺乳瓶を受け取り赤ちゃんに向ける。


「ほら、飲め」

「ほぎゃあああ」

「碧、おい、飲まないぞ?腹が減ってるんじゃないのか」


伊織さんはしかめっ面で赤ちゃんを睨み付けてる。それ、怖いから止めてください。

といいますか……。


「……伊織さん。ちゃんと吸い口を向けないと赤ちゃんが吸い付けませんよ?」

「は?」


伊織さんはきょとんとした顔で哺乳瓶と赤ちゃんを見比べてるけど。


そりゃ、吸い口が上向きで赤ちゃんの顔が下にあれば飲めるわけないですよ。


「近づければ勝手に飲むんじゃないのか?」

「赤ちゃんは自分じゃ動けないんですから。ちゃんと吸い口を向けてあげてください」

「そうなのか?」


……こりゃ、いろいろと伊織さんもお勉強が必要みたいです。