「今晩は眠らせないからな、覚悟しろ」
「え……で、でも。夕食がまだ」
「そんな些末なことより、おれは今すぐ碧が欲しい」
ちゅ、と伊織さんから軽いバードキスをされただけで、顔中に血が集まって頬が熱くなる。彼に抱き上げられたまま、ダイニングルームから出ようとした瞬間。
「ふんぎゃあああ~」
……まるでタイミングを計ったように、赤ちゃんが盛大に泣き声を上げました。
「大変!またお腹が空いたのかも。ミルク作りますから、下ろしてください」
「……ああ」
伊織さんは渋々と言った様子で私を床に下ろしてくれましたけど。今、舌打ちしましたよね?
2回目ともなると多少は手順もわかって、さっきよりはまだスムーズにミルクを作れる。熱さを確認してから赤ちゃんを抱き上げてみようとするけれど……。
ふと、思い付いて私は赤ちゃんを伊織さんに向けた。
「伊織さん、抱いててください」
「は? おれが!?」
何の必要があるんだ? と不機嫌極まりない目付きで睨んでくるけれど、ちっとも怖くはありません。きっと私との……そういう時間を邪魔されて、彼のご機嫌は地を這ってるけれど。私は敢えてそんな伊織さんに赤ちゃんを託した。
ギャン泣きする赤ちゃんを押しつけるように強引に抱かせれば、「お、おい」と困ったように伊織さんの眉が下がる。
「なぜ、おれが見知らぬ他人の子どもを抱かなきゃならないんだ?」
「パパになる予行練習です。おばあちゃんも言ってました。子どもを持つならちゃんと考えておけって」
そして、哺乳瓶を彼の手に持たせる。
「一度、ミルクをあげてみてください。自分の子どもだと思って」



