伊織さんを信じない訳じゃないけど、彼が嘘をつく時の癖(無意識にどこかに触れる)が出ていなかったからホッとした。彼は良くも悪くもプライベートでは正直なんだよね。
「そうでしたか……ごめんなさい。実は去年……ファミレス前で2人を見たので」
「ああ、あの時か。確かにホテル街を通って帰ったからな……」
伊織さんは唐突に私の体ごと引き寄せると、ギュッと息苦しいほど強く抱きしめてきた。
「……済まなかった。不安な気持ちにさせてしまって。ずいぶん悩んだろう?もう二度とああいう紛らわしい真似はしない」
彼らしい真摯な謝罪を受けた後、そのまま額とまぶたに口づけられました。
「伊織さん……」
見上げれば、彼は眉尻を下げて本当に申し訳なさそうな顔をしてる。少しだけ幼くなる顔つきに、クスリと笑ってこちらからもお返しをしてあげました。
「!」
「そんなに謝らなくても、伊織さんの気持ちはよくわかりました。ちゃんと信じていますから……」
私からの軽いキスに目を見開いた伊織さんは、やがてSっけたっぷりの意地悪な笑みに変わった。
「そうか……そんなにおれが欲しいか。ならば、夫として妻の期待には応えないとな」
ひょい、と視界が変わって「え?」ときょとんとしていると……いつの間にかお姫様抱っこされて。伊織さんは獲物を狙う獣さながらの顔で当然のようにおっしゃいました。
「おれたちも頑張ってみようか、碧」
な……何を頑張るんですか!



