ドキドキしながら答えを待っていると、フッと伊織さんが息を吐くのを感じた。
「そんなの、嬉しいに決まっているだろう」
そして、なぜか彼は私のところまで歩み寄ってくると、肩に手を置いて軽く抱き寄せられた。
「まだおまえに心の準備が必要だと思ってる。周りの期待やプレッシャーもあるだろうが、そんなに焦るな。困ったことがあれば、すぐ言うんだぞ」
髪に指を通して軽くすいたあと、頭に口づけた伊織さんはそのまま離れてダイニングルームを後にする。
いきなりそんな振る舞いをされた私は、何が起きたのかわからなくて。真っ白な頭が現実を理解しはじめて。半ばパニックに陥った。
「い……伊織さん……気づいてた……」
へなへな、と腰が抜けて椅子に座ると、彼の言葉を頭の中でゆっくり反芻する。
あれは、どう考えても私の意図が解った上での返事。赤ちゃんに関しての彼なりの答えなんだ。
そうなんだ……。
伊織さんが夫としてこれだけの甘さを見せただけで、私はすぐ腰が砕けて真っ赤になる。全然免疫がないせいだけど、穴があったら入りたいほど恥ずかしい。
キス……すらまだなのも。伊織さんがタイミングを考えているからなんだ。全然男性経験がない私に配慮して、ゆっくりと段階を踏んでくれてるんだと思う。
その誠実さと優しさに胸が震えて、彼を好きになれたしあわせを噛みしめた。



