「なるほど、確かにそうなると合点がいく。花子の腹が膨らんだのも卵があるからだ。しかし……繁殖期はこの本だと2~3歳以降とあるが」
「去年の夏祭りで掬いましたもんね。1歳になるかならないか……ですよね」
う~ん……と思わず伊織さんと考え込んでしまう。もしかすると早熟なのかもしれない……心愛ちゃんのように。
「と、とにかく。産卵の準備が整っているなら、きちんと産卵させないと卵詰まりを起こして危険みたいですから。このまま様子を見ます?」
「そうだな。ただ、このままだと花子の体力の消耗が激しい。危険だと判断したら水槽を分けた方がいい。準備だけはしておこう」
「はい……あの」
伊織さんが早速準備に取り掛かろうとするのを思わず呼び止めてしまったのは、どうしても訊きたいことがあったから。
「なんだ?」
伊織さんはわざわざ振り返って、体ごと私の方へ向けてくれる。一年前はろくに返事も無かったのに、そんな些細なことがとてもしあわせに感じた。
「あの……もし赤ちゃん金魚が生まれたら……嬉しいですか?」
本当は、違う意味で訊いてみたかった。
“赤ちゃん生まれたら嬉しいですか?”
……って。
でも、まだ、早いかもしれない。
私たちは本当の家族になって間もない。根深いトラウマから他人を受け入れるのが不得手な伊織さんが、自分の血を引いてるとはいえ自分と違う“人間”を受け入れられるのかという心配があった。



