夕食に鶏雑炊とキクイモの漬物を並べたら、伊織さんは木匙で雑炊を掬うけど、食欲がないのかなかなか口にしない。
「花子の調子が悪いんですか?」
心配になって訊ねてみると、伊織さんはいや、と否定しながらも沈んだ様子で呟いた。
「今度は太郎の様子がおかしいんだ」
「え? 太郎も体が膨らんだんですか?」
まさか、同じ病気になってしまったの? とより心配になったのだけど。伊織さんは違うと否定した。
「いや、むしろ元気に見えるくらい活発に泳いでいる」
「? 元気に見えるならおかしくは……」
伊織さんの話が見えなくて首を捻ると、彼はため息を着きそうな顔でこう話す。
「それが……花子の後にぴったりくっついて離れないんだ。花子が離れようと懸命に泳いでも、ストーカーみたいに追いかける」
「えっ……それって。ちょっと待ってください」
私は思い当たることがあって、急いで部屋に戻ると机に置いてあった本を手にダイニングルームに戻る。パラパラとページを捲った後、該当する情報がある箇所を伊織さんに見せた。
「それって……もしかして追尾行動じゃないですか? 繁殖期の金魚の雄がする行動ですよ」



