【今はしょくひんの野菜にいます】
送ってから、野菜ってなんだろう? 野菜コーナーだよね!? なんてひとり突っ込みをしつつ、恥ずかしくなって顔を伏せた。
(や……やだ。こんなメール送っちゃって。伊織さんに馬鹿なやつって思われたらどうしよう)
きっと伊織さんは来る。だけど、すぐに顔を合わせるのは恥ずかしすぎる。
(そ、そうだ。先にココア売り場に行こう。売り場に着いてからメールで知らせれば)
わたわたとお茶やコーヒーがあるコーナーへ着いてすぐ、伊織さんにメールをしようとスマホを取り出しメールを打ちはじめたんだけど。
トントンと背中をつつかれ驚いて振り向けば、急いできたらしい伊織さんが立ってた。
ネイビーのダブルスーツを着た伊織さんは、少しだけ髪を乱して汗をかいてる。必死な表情に、よほど花子が心配だったんだなとハンカチを取り出しながら思った。
「そんなに一生懸命にならなくても、ココアは逃げませんよ」
伊織さんの顔に浮かぶ汗を拭っていると、なぜか彼にハンカチを持つ手首を掴まれた。
もしかして余分なことだと怒られるのかな? ドキドキと彼の様子を窺えば――伊織さんの口から大きなため息が吐き出された。
「……逃げられたかと思った」
「え、花子ですか?」
「違う、おまえだ」
「……私?」
伊織さんが言う意味がわからずに目を瞬くと、なぜか不安げな瞳をした彼の目と視線が合う。
「……野菜売り場にいなかった。てっきり……おれを置いてどこかへいってしまったかと」
そして、離さないと言わんばかりに大きな手で手のひらを包み込まれた。



