はっ、と気づけば子ども達の視線を感じて。コホンと咳払いをして真顔に戻る。またおばあちゃんに叱られないうちに、真面目に店番をしなきゃ。
花子の病気を治すためにも、と飼育本を再び広げる。
(金魚の体が膨らむ病気は……腎臓の病気……腹水病……他にも腸や卵巣とかいろいろか)
金魚も意外と内臓系の病気にかかりやすい、と初めて知って何だか心配になってきた。治療法として他の水槽に隔離したり、絶食したり、塩浴やココア浴まで紹介されてる。
(ココアか……家にないから小さいの買っていってみよう)
なんでも試してみないとわからない。おはる屋の店番が終わってから、すぐにスーパーに寄ってみた。
でも、私の判断で勝手に花子を治療するわけにもいかない。スマホを取り出すと、伊織さんはまだ仕事中だろう時間。
なら、電話でなくメールで伝えてみようと入力に四苦八苦しながら、なんとか一通を書き上げるのに10分かかった。
【おしごとお疲れさまです。きんぎょの本で、病気をなおすのにここあがいいと書いてありました。ここあをかって帰っていいですか?】
時々ひらがななのは、急いだせいです。フリック入力はどうも慣れなくて、誤字脱字のオンパレードでしたから。
(こんな出来で恥ずかしい……けど、今は花子の方が心配だから。えいっ!)
震える指で送信を押すと、緊張が抜けてふうっと息を吐く。
たぶん返ってくるのはだいぶ後だろうな、とスーパーのかごを持って店内に入った瞬間。スマホがブルブル震えてドキッと心臓が跳ねた。
(え……早い。仕事中じゃないの?)
疑問に思ってメールを開けば。
【おれもスーパーに行く。今食品売り場か?】
「は!?」
思わず、目が点になりそうになりました。
伊織さん、仕事はどうしたんですか?



