しばらく考え、エモリエルは言った。

「後で、永愛さんの家にお見舞いに行きませんか?」
「お見舞い…?」
「明日は花火大会ですし、夏バテなどしていないか心配ですから」
「でも、いきなり行ったら迷惑じゃ……」
「約束なしに突然家に訪ねてきた永愛さんのことを、あなたは迷惑に思いましたか?」
「全然!」

 むしろ、瑞穂はその話を聞いて嬉しいと思った。

「だったら迷うことはありませんよ。私達は彼女の友達です。今は好かれているのだとうぬぼれたっていいではありませんか」
「そうだね。俺も、永愛と話したい」

 エモリエルの魔術を使って人目につかないところへ空間転移した二人は、すぐに永愛の家を見つけた。

 しかし、訪ねても永愛に会うことは出来なかった。彼女の母親が言うには、

「せっかく来てくれたのにごめんなさいね。あの子今は親戚の家に遊びに行ってて」

 とのこと。

「そうですか。でしたら、このメモを渡していただけますか?お願いします」

 エモリエルが母親に渡したメモは、その後すぐ永愛に渡った。彼女は自室にいた。

「エモリエル君と海堂君っていう男の子が来て、これを渡してほしいって。永愛に言われた通りにしたけど、居留守なんて使って本当に良かったの?」
「うん、いいの。ありがとね、お母さん」
「……桃むくから、後でリビング来なさい」

 母親が出て行くと、永愛は渡されたメモを開いた。エモリエルらしい綺麗な文字で、メッセージが書かれている。

《明日の花火大会ですが、午後6時にいつもの公園で待ち合わせてから行きましょう。お話したいこともありますし、純粋にあなたと共に花火を見られることを楽しみにしています。 エモリエル》

 最近、あからさまに三人で遊ぶのを避けているのに、そのことに触れないでいてくれる。そんなエモリエルの優しさが伝わってくるようで、永愛の胸は痛んだ。

 同時に冷や汗が出る。

(おまじないを使ったことがバレたんだ…!今日わざわざ家に来たのも、その話をするため。それで会えなかったからメモで「話がある」って念を押して来たんだ。でも、花火楽しみって書いてくれてるし、怒ってはいないのかな…?ううん、そんなはずない!エモリエル君は紳士だから大人な対応してくれてるだけで、本心では怒ってるに決まってる!)

 もう、今までのように逃げられない。

「行くしかないよね……」

 絶交される覚悟で、永愛は花火大会に臨むことにした。自分のせいで友達を失ってしまうことは、とてもこわかったけど。

 窓の外を見ると、いつの間にか雨が降っていた。窓ガラスを打ち付ける雨粒の音が、永愛の不安をさらに深くした。

(瑞穂君達と遊ばなくなってから、よく雨が降るようになったなぁ……)