「エモリエル君、瑞穂君ちの場所、教えてくれる?」
「はい。もちろんです」
「ありがとう!」

 瑞穂の家はエモリエルのアパートから目と鼻の先にあった。今まで背景として視界に入っていたくらい近くの建物。

(瑞穂君に会えたら、まずは昨日の不自然な態度を謝って、それから、お菓子作りに誘ってくれたこと嬉しかったって伝える!「できたら花火大会も来てほしい」って言うんだ!)

 瑞穂の自宅は、二階建ての一軒家だった。インターホンを鳴らそうと指を伸ばした時、玄関扉から明るい話し声がし、永愛はとっさに歩道脇の街路樹に隠れた。

(お客さんかな?タイミング悪かったかも……)

 ジッと家の様子をうかがっていると、中から瑞穂が出てきた。同じ年頃の少女を連れて。

(あれって、たしかA組の子…!秋良君を訪ねた時に何回か見たことある!)

 瑞穂の自宅から彼と一緒に出てきたのは、2年A組の琴坂いなみだった。ショートヘアの美人で、背が高い。性格もサバサバしていそうだ。

(瑞穂君の彼女…?琴坂さんが……)

 ショックのあまり、永愛はその場にしゃがみこんでしまった。街路樹の陰が、うまく永愛の存在を隠す。

(どうして今まで気付かなかったんだろう。瑞穂君とは毎日会ってたから、勝手にそういう相手はいないんだとばかり思ってた)

 胸が痛み、涙が出た。

「送るよ」
「まだ明るいからいいのに。でも、ありがとね、瑞穂」

 永愛の隠れている場所とは反対の方向に、瑞穂といなみは歩いていった。

(琴坂さん、瑞穂君のこと呼び捨てしてる。こうやって家にも来て……。「彼女」だから)

 二人は付き合っている。その事実に心は冷え、体が熱くなる。頭が痛くなってきて、耳に入る音も全て遠ざかった。

(琴坂さん、カッコよくて可愛いもん。あんな人に敵うわけない……)

 琴坂いなみと比較したら、自分には魅力がないように感じ、絶望的な気持ちになった。無力な自分。

(私、また失恋するの…?嫌だ……。瑞穂君だけは失いたくない…!)

 すでに彼女がいる人を想い続けるなんて、無謀なのは分かっている。でも、好きな気持ちは止まらなかった。

(友達としてそばにいられればいいと思ってたけど、違う。私はただ、想いを伝える勇気がなかっただけ。関係を変えるのがこわかっただけ)