だからすぐに、貴久の話は出来なかった。

この話は"電話のついで"ということにしたかった。

そうしなければ僕はまた彼女のことを傷つけてしまう。


でもじつはこんな小さなことが、後でもっと大きな傷となることを僕は知らないでいた……。


それから僕と美貴は30分くらい、旅行の時の話とか、喫茶店の話とかで盛り上がった。

話が途切れて、彼女が「……じゃ」と言ったところで僕は切り出した。


『あ、あのさ!』


「うん」


『み、美貴さんにお願いがあるんだけど……』


「お願い?」


『う、うん』


「何?私に出来ること?」


『貴久が……ほら、いつも俺と一緒に喫茶店に行ってる奴いるじゃん?』


「うん……名前は知らなかったけど」


『あいつ……天野さんのこと気に入ってるんだよね』


「そう……なんだ……。」


何故か彼女の声は沈んだようになった。

気付いてはいたが、僕はそのことを美貴に話すのに必死で、この時は特に気にも留めなかった。


『だから美貴さんの方から天野さんのこと誘ってみて欲しいんだ』


「遊びに行こうって?」


『うん、いいかな?』


「いいけど……千鶴には彼氏いるよ?」


『それでもいいんだ……駄目なら駄目って本人から言われたらあいつも諦めれると思うし……』


「そっか……それって」


『うん』


「4人でってことよね?」


『うん……そうだけど?』


彼女の返事はなかった。


『嫌だった?』


「ううん……いいよ。千鶴なら来ると思うし」


美貴はそう言った後、「4人なら……」と付け加えるようにボソッとこぼした。