虹色のラブレター


あの日以来、喫茶店で千鶴の姿を見ることがなかった。

それは、いつも通り貴久と一緒に昼休憩を喫茶店で過ごしている時、彼の口からさり気無く聞かされた。


「天野さん、バイト辞めたらしいな……」


『え?』


貴久は僕の方をチラッと見て、飲みかけたコーヒーを元に戻した。


「お前……知らなかったの?」


知らなかった。

もしかしたら……という予感はあった。

かと言って誰かに聞くとかいうことも出来なかった。


それは千鶴との約束だから。

僕と千鶴との時間は……"二人だけの秘密"なのだから。


僕と千鶴はまるっきり他人のはずだったから……。


『あ、うん、そう……そうなんだ』


僕は視線を広げていた雑誌に移した。


「それだけ?」


貴久は不満そうに言った。


『それだけだよ……何で?』


僕は目線を上げた。


「いや……もっと驚くかと思ったのにさ」


『俺は……ほとんど話したこともなかったし』


「そっか、俺はショックだけどな」


彼らしくない元気のない声だった。


『連絡先は?聞いてないの?』


彼は一つ大きな息を吐いた。


「結局、教えてもらってないんだ……バイト辞めたのも美貴さんに聞いたことだし。
だから、てっきりお前は知ってるのかと思って」


『ううん、知らなかった……。じゃもう連絡も取れないのか……』


美貴とはあの日以来、喫茶店以外では会っていなかった。

でも、ここでは普段と変わらず顔も合わせていたし、言葉も交わしていた。

なのに彼女は僕にそのことを黙っていた。

僕も彼女に訪ねたわけではなかったのだが……。