なつの色、きみの声。



乗車して2時間を過ぎた頃。

流れていく景色が次第に過去の記憶と結びついていく。


線路脇に見えるこの道を、何度も通った。

海が見えると、車の窓を開けたいとせがんで、潮の香りと海の音に興奮していた。

その感覚を、喉の奥がじんと痺れるような高揚を思い出す。


電車で来たことはないから、降りる予定の駅名に聞き覚えはなく、そろそろかと調べると次の駅。

大宮くんを起こすと寝起きにぎっと睨まれたけれど、不機嫌なわけではないようでさっさと電車を降りていく。

さびれた小さな駅舎は無人駅で、他に降りる人もいない。


バス停の近くにあったコンビニで大宮くんはおにぎりと飲み物を、わたしはスポーツドリンクを買い、ベンチに座る。

スポーツドリンクをゆっくりと飲んでいると、3つめのおにぎりのフィルムを破った大宮くんが思い出したように言う。


「そういえば、手土産がどうとか言ってなかったか?」
「……あ」


昨日、最寄り駅で手土産が買えるかを話していて、でもさっさとホームに行ってしまったから見る時間がなかった。

そもそも、まだ開店していなかったかもしれないけれど、そのあと頭からすっかり抜けていた。


「どうしよう。コンビニしかないよね、ちょっと行ってくる」
「なくても気にしないと思うけど」
「だってほら、会うのは5年ぶりだし、手ぶらはないよ」


わたしにも色々と段取りというものがある。

急いでコンビニに向かおうとすると、大宮くんがわたしの背後を指さす。


「バス来た」
「うそっ」


定刻通りにやってきたバス。

これを逃すと次は1時間後だし、歩くには少し遠い。

諦めろ、と額を小突かれて、仕方なく大宮くんの後を追ってバスに乗る。


空いているから、わざわざ隣に座る必要もないと思って、通路を挟んだ座席に座る。

大宮くんはまたすぐに眠ってしまっていた。

海沿いの道を15分ほど走ると、見慣れた浜辺が窓の外に広がる。

夕方になると、碧汰と来ていたのはこの辺りだ。

懐かしさに、切なさが混ざる。

この景色に再び出会えたことを、手放しでは喜べなかった。