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翌朝、アラームよりも早く目が覚めて、お母さんが家を出るのを待ってから支度に取りかかる。
いつもバイトのときに着るようなシンプルな服に手を伸ばそうとしたけれど、ふと思い立ってクローゼットを開ける。
以前、お母さんがプレゼントしてくれた透明感のあるパステルカラーのワンピース。
わたしに似合うと思って、と渡されたものの、着る機会がなかった。
お母さんには見せられないけれど、間接的に関わりのあるものを纏っていくのはいいかもしれない。
マキシ丈のワンピースに袖を通し、高い位置でまとめた髪は黒の髪ゴムではなくシュシュで結い、薄づきのリップをくちびるに。
慣れないことをしている自覚はあるし、気恥しさもある。
それでも、碧汰やおじいちゃん、それからおばあちゃんの前に出る自分を、少しでも着飾りたかった。
アイスブルーのカーディガンを羽織り、忘れ物がないかをチェックして、予定よりも早く家を出る。
駅まではほぼ一本道。
大宮くんもこの道を通るはずで、後ろから来るならわたしの遅い歩みを追い抜かしてもおかしくないし、前方にそれらしき姿は見えない。
そういえば、バイトのときもいつも一番乗りだ。
遅刻しそうなわけでもないし急がなくていいとは思いつつ、足を速める。
駅に着くまでの間に姿を見かけることも追い越されることもなく、構内で辺りを見渡すけれどそれらしき人はいない。
「相模」
近くのベンチに座っていようとしたら、背後から聞き覚えのある声がかかる。
振り向くと、どこかにすでにいたらしい大宮くんが立っていた。
わたしが気付くと、そのまま券売機の方へ向かっていく。
大宮くんもいつもとは服の趣向が異なっていて、毛先に癖のある髪はあえてストレートに整えていた。
服装自体はシンプルなのに、普段と違う様相に思わずじっと見入ってしまう。
「かっこいいんだね、大宮くんって」
「なんだそれ」
嫌がっている風ではなく、単純に何を言ってるんだって顔をして、大宮くんは券売機にお金を入れる。
隣の券売機で往復切符を購入して、ホームに向かう。
切符を仕舞いながら、財布を取り出すと大宮くんが怪訝そうに眉を寄せた。
「大宮くん、切符のお金払うよ」
付き合わせているのはわたしだから、多めに持ってきている。
「いらない」
「そういうわけにはいかないよ」
「いらないって言ってるだろ。やめろ」
露骨に嫌がる大宮くんに、半分でもと食い下がると、いよいよ苛立ったようで、離れているのに手で振り払われる。
「しつこいよ、お前」
「ごめん、でも」
「勝手についてきてる奴に変な気遣うな」
ふん、と鼻を鳴らす大宮くんに、これ以上はしないでおこうと諦めるけれど、今の言葉は聞き捨てならない。
「大宮くんが来てくれたこと、すごく心強いよ。本当に、わたしひとりだといつまでも来られなかったと思う」
「……そうかよ」
もしかして照れたのかと悪戯心で顔を覗き込むと、大宮くんはぱっと顔を背けてしまった。
程なくしてやってきた電車に乗り込む。
ボックスシートの対角に向かい合って座る。
「俺寝るから相模は起きてろよ。寝過ごしたら洒落にならないからな」
「わ、わかってるよ」
車内は涼しくて快適だし、座席の背もたれもふかふかで寝てしまいそうと考えていたことを見透かしたようなタイミングで念押され、きちっと座り直す。
大宮くんは宣言通り、数分もせずに眠ってしまった。



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