なつの色、きみの声。



午後9時を過ぎて、同じ時間にバイトを終えた高校生組と店の裏口から出ていく。


「それじゃあ、お疲れ。天斗は相模のことよろしくな」


片手を上げて、自転車で颯爽と去っていったのは田上さん。

唯一、この夏前にバイトを辞めなかった高校3年生。

人懐っこく朗らかな人で、面倒見もいいから馴染みやすいとてもいい人だ。

そんな田上さんとはまるきり非対称な性格なのが、わたしと一緒にこの場に残されたもうひとり。


「帰ろうか、大宮くん」


大宮天斗くん。

大宮くんは学年は同じだけれど、別の学校に通っている。

本来ならアルバイトは禁止のはずの進学校で、家庭の事情で特別に許可をもらっていると聞いたことがある。


「……聞いてる?」
「聞いてる」


それなら返事くらいはしてほしい。

歩き始めた大宮くんの少し後ろをついて行く。


大宮くんとは校区が違うのだけれど、わたしの家に近くを通るということでシフトが被る日は一緒に帰ってくれる。

そのきっかけは田上さんの一言だったけれど、今では田上さんがいない日でも、特に約束はせずに待っていてくれる。


大宮くんは口数が多い方じゃないとはいえ、1年の付き合いになるのに、大宮くんのことをほとんど知らないなあと思って、今日は何となく、話しかけてみた。


「大宮くんの学校って、夏休みの課題は多い?」
「……別に、普通」


突然話しかけられたことに驚いたのか、ちらっと振り向いて足を止める。

いつもの距離感を少しだけ破って、大宮くんの隣に並んだ。


「夏休みも授業があるんだっけ」
「午前だけな。毎日ではない」
「それでもすごいよ。バイトもシフトたくさん入ってるし」


大宮くんがどんなタイムスケジュールで過ごしているのか知らないけれど、わたしが知っている部分だけ切り取っても、とてもハードに思える。

美衣がわたしを心配する気持ちも、これと同じなのかもしれない。


「家帰ってから、課題する」
「えっ! よく夜にできるね。わたしなんてへとへとですぐ寝ちゃうのに」
「そりゃ、相模はな」
「ちょっと、どういう意味?」


聞き返すと答えはせずに、ふっと息を吐くように小さく笑う。

そんな姿が珍しくて、思わずじっと見つめていると、不意に大宮くんは歩くペースを上げた。

わたしの家が近くなると、大宮くんは何も言わずに早足になる。

その背中にバイバイと声をかけても返事はない、いつものことだ。

大宮くんの背中が見えなくなってから、アパートの外階段を上る。