なつの色、きみの声。



職員室に鍵を返してから外に出ると、むわっと熱気がまとわりつく。


「夏だね」


室内にいたときはけろっとしていた美衣もさすがに堪えるのかこめかみに汗を浮かべ、しみじみと呟く。

8月に入ったばかりの、お盆にかけて夏真っ盛りのこの時期が、早く過ぎ去ればいいのにと思う。


暑さは不快感と、痛みを連れてくる。

碧汰のいた夏を、今でも思い出す。

そのたびに、碧汰のいない夏を思い知る。

痛いほど、胸に重くのしかかって、息が詰まる。


中学生のときは、部活に打ち込むことで碧汰のことを考える時間を少しでも削ろうした。

一時は遠くに感じても、ぬるい風やセミの鳴き声、移り変わる空の色に碧汰を想起して、滲むように鮮やかに記憶が蘇る。

あれほど恋しかった夏を、今では大嫌いになった。


高校では部活に入らずに、アルバイトを始めた。

夏休みのシフトが多くなることを承諾した理由は、単純な人手不足の他に少しでも気を紛らわす時間を多く取りたかったから。


碧汰と過ごした夏を思えば思うほど、胸の奥が焦げ付いたような心地になる。

立ち寄ったコンビニで買ったアイスを手に、ぼうっとセミの大合唱に意識を飲まれていると、美衣が目の前で手を振る。


「本当に大丈夫?」
「え、ごめん。なに?」
「やっぱり変じゃない? 海琴、何か悩みでもあるの?」


わたしの様子は美衣から見てそんなに変なのかな。

悩みなんて、心当たりはひとつしかない。

でもそれを、誰にも伝えたことない気持ちを、今ここで美衣に話すことはできなかった。