◇
カーテンの隙間から射し込む陽光。
ささやかなシーリングファンの風。
座っているだけなのに全身に汗が滲む。
決して快適とは言えない空間で、出てくる言葉はひとつ。
「あつい……」
わざわざ夏休みに制服を着て学校の図書室に来るのは、調べ物ができて涼しいからという理由なのに、今日に限ってエアコンが故障していて、修理が入るのは明日だと聞いた。
「頭が回らない、何も考えられない」
「海琴、そこ間違えてるよ」
「え、うそ。どこ?」
暑くて集中できていないわたしの隣で、友人の美衣は黙々と課題を進めていた。
指摘された数学の問題は、答えは出ているしどこが間違っているのかわからず首を傾げると、ここだよと一点を指さされる。
「本当だ。教えてくれてありがとう」
「そのページ終わったら、早いけど出ようか」
「そうしよう。もうね、暑くてやってらんないよ」
もう耐えられないと口にしそうだったところに思わぬ提案。
授業のノートを見返しながら、残りの問題を解いていく。
家にいるとついだらけてしまうし、バイト終わりの夜は疲労から課題に手をつける余裕がない。
こうして週に何度か学校に来て、計画的に課題をこなすのが効率がいいと去年学んだ。
美衣は自宅でも勉強ができるタイプだけれど、わたしに合わせて付き合ってくれている。
エアコンの故障が想定外だったとはいえ、今日だけでだいぶ進んだ。
「どうする? アイスでも食べて帰る?」
机に広げていた荷物を片付けていると、また魅力的な提案をされる。
「コンビニとかでよかったら。このあとバイトなんだ」
「いくら夏休みだからってシフト入れすぎじゃない?」
「多めに希望出したのはわたしだから。来年の夏は、続けてるかわからないし」
夏休み前に受験生が数人辞めたこともあって人手が足りないというから、可能な限りシフトに入ると伝えたら、本当にパンパンに入れられてしまった。
「無理してない? 海琴、気付いてないかもしれないけど顔色良くないよ。疲れてる顔してる」
「ええ、そんなことないよ」
「たまにはゆっくり息抜きしなよ。課題だって、きついときは休んでいいからね」
「うん。ありがとう、美衣」
そうする、とは返事ができなかった。
美衣にも何となくはぐらかしたことは伝わったのか、心配そうな顔をしていた。



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