なつの色


小波(さざなみ)の音が優しく静かに鼓膜を揺さぶる。

ぬるい風が吹き抜けると潮の匂いが鼻をかすめた。


視界の端に舞う横髪を片手で抑えながら、目を細める。

海面に降り注ぐ太陽の光が波間に反射して、きらきらと輝いていた。


「ねえ、碧汰(そうた)


幾重にも重なる波の彼方、水平線を見つめる碧汰の肩にそっと触れると、眼鏡を取った双眸をわたしに向ける。


「約束、覚えてる?」


わたしの目線に合わせて屈んでくれた碧汰と見つめ合い、一文字一文字をゆっくり、はっきりと伝える。

碧汰は一度目を瞬き、ほんの少し眉を下げて、笑った。


「︎︎忘れない」


もう、──年も前に碧汰と交わした約束。

夏が来るたびにこの場所で、何度も約束を繰り返す。


なつの色を、わたしの声を

︎︎ ︎︎ ︎︎“忘れないで”




【なつの色、きみの声】