「うぁぁ、やっと授業が終わったぁぁぁ…。」

「お疲れ様、愛魅。」

私はグーッと背を伸ばす。

萌はいそいそと帰る準備を始めた。

「愛魅、そのまま帰る?」

「んー、今日講習会入ってるんだ…。」

「じゃあ帰るの遅くなるね…。待ってるよ。」

「いや、遅くなるし先帰ってていーよ?」

「そう?じゃあお言葉に甘えて先に帰ってるよ。」

「うん、ばいばーい!」

「ばいばーい」

とは、言ったものの…。

「(はぁ……。)」

自分でとっといて何だけど、やっぱり講習会はめんどくさい…。

しかも、私の一番苦手な古文。

ウトウトしちゃう…。

……………。

「こら、柊!!寝んな、起きろ!」

「ふぇあ!?すいません!」

いつの間にか私は寝てたらしい…。

周りの知らない子達からクスクスと笑い声が聞こえる。

「(恥ずかしい…。)」

笑い声から耳を傾けないように顔をうつ伏せた。

だけど、その中で一際笑ってた、隣の席の男子。

思い切り爆笑している。

私はその男子をキッと睨みつけた。

「…あんまり笑わないでくれる?」

「だ、だって隣で爆睡してる女子が怒られてんの見てるとさ…、ハハハッ、ヒーッ」

見知らぬ男子に爆笑されるのは、なんか腹が立つ。

だけどここで怒ったら目立つかもしれないし、やめておき、とりあえず無視しておいた。

「(なんなの、腹立つなぁ…。)」

講習後。

私はその男子を呼びつけた。

「もう!あそこまで笑わなくたっていいでしょ!?」

「あー、まだ怒ってんの?ごめんごめん~」

「何よその謝り方…。」

「だってオレ、素直に笑っただけだし?」

「素直すぎる!」

私がムキになって怒れば怒るほど、コイツはケラケラと笑う。

なんか調子狂うなぁ…。

「とにかく!2度とあんな事しないでよね!」

「はいはい、わーったよ…。」

プイっと私はその男子にそっぽを向いて、男子はポリポリと頭を掻いた。

「(何なのよ、この男子…。)」

「あ、そーいえばさ、お前傘2つ持ってっか?」

「傘?なんで?」

「いや、オレ傘忘れちまってよ…。さっきから結構雨降ってんだよな…。」

窓の外を見ると、ガラスにたくさんの雨が打ちつけている。

カバンを探ってみると、奥底に1本だけ折りたたみ傘があった。

「やっぱ1本しかねーか?」

その男子はひょいっとカバンを覗きこんできた。

「うわ!ち、ちか、近いって!」

「ん?別に気にしなくてよくね?」

そう言ってクシャっと笑う名前も知らない男子に、

心臓がキュッてなったのは、今は私だけの秘密だ。