「……頑張れ、歩」


「うるせぇ……もう出てけよ……」


「うん、帰る」



不機嫌になった歩を笑いながら教室を出て、新がいないことを確認してから生徒玄関に向かう。


マンションには歩いて帰ることにしよう。


歩けば一時間でつくし。


もう、ここにいたくない。


蓮央に連絡を入れようと、スマホを取り出したとき。




「もう帰るのかよ、『咲ちゃん』」




笑いを含んだその声に、スマホを操作する指が止まる。


ゆっくりとその声の主を見ると……



金とピンクの髪。


甘いマスク。



見たくも会いたくもない、憎い相手。



「翠、斗……」


「気安く俺の名前を呼ぶな。裏切り者の分際で」



女ならみんな虜になるであろう甘い微笑みを浮かべながら、冷たい声でわたしの心を傷つける彼。


口は笑っているけれど、目は冷ややかだ。



「髪型変えて、俺が気づかないとでも思った?奈緒は騙されてたっぽいけど」


「…………」


「あー、聞いたかもしれないけど、お前の幼馴染みを【桜蘭】の幹部にしたから。今後の活躍に期待だな」


「……何を、企んでるの?」


「んー……ただの暇つぶし。そのうちわかる」



クツクツと笑い、翠斗は私の横を素通りして行った。