「藤森さん?聞いてますかぁ?」


我に返るとさっきの女の子が覗き込んでいた。

わざとか、たまたまか胸の谷間が見えている。


(もう、どうでもいいか。)


「いいー…」


「圭!!ここにいたの?捜してたんだよ。迎えに来るって言ったでしょ?」


「令子?」


かなり不自然に腕を絡ませると令子は耳打ちした。


「傷口癒えないうちに無理矢理手出すと、自己嫌悪になるわよ。止めときな。」


図星をつかれてドキッとする。


「圭、早く帰ろ?今日も泊まってくでしょ?」


わざとらしく女の子に牽制している令子は上手いもんだ。

数々の修羅場をかいくぐってきただけはある。


「あ、ああ。ごめん、悪いけどこう言う事だから、帰るね。」


誘ってきた女の子は凄い不満そうな顔してたけど、それ以上のフォローは入れなかった。そんな心の余裕はない。

去っていく女の子の後ろ姿を見てアイツを思い出す。


「令子……。飲もうぜ。」


「いいけど……。あんた、大丈夫?」


なんとも察しのいい女だ。

だけど、誰かに寄り掛かりたい今は丁度いい。


「静かな処がいい。」


「分かったわ。何時間でも付き合ったげる。…………泣いてもいいわよ。あんたの弱み握れるから。」


「ぜってー泣かねーし。」


令子の返しが思いの外軽いから、こいつと話していると、俺の沈んだ心は案外早く浮上するのかもしれないと、いつも錯覚できていい。


「こんな夜は飲むに限るわ。」


そう言って、令子は綺麗な顔で笑った。