しばらくして、彩は車イスで病室まで戻ってきた。

看護師が、車イスからベットに彩を移した。

「検査の結果は数日後になりますので、また聞きに来てください」と医者は言って、去って行った。

「いつでも呼んで下さいね!」と看護師も言って、去って行った。

「よく無事だったな。お帰り」とボスが声をかけると、「…ただいま…」と彩は言った。

「彩さん、無事で良かった。ほんとに…」と陸は言って、彩を思いきり強く抱き締めた。

「うん。ありがとう、頑張ってるんだってね?栄介からたくさん聞いたよ。栄介ね、私が眠ってる間もずっと声かけてくれてたから…もちろん、みんな声かけてくれてたけどね」と彩は言って順番にみんなの方に顔を向けたので陸はとりあえず離れた。

「どこか痛んだりは…?」と栄介が聞くと、彩は少し黙って、間を空けてから、

「実はね、体が動かないんだ。記憶もちゃんとあって、会話は出来るんだけど…脳に損傷が残ったみたいで…体への指令が上手く伝わらなくて、体が動かない」と彩は言った。

「ほんと?どうしよう…」と陸はおどおどし始めた。

「何平然と言ってんだよ!!お前、今の状況わかってんのか!!」と理亜が少し強めに言うと、

「兄貴、彩さんに何てこと言うの!!怒らないでよ」と陸が言うと栄介が、「俺のせいで…ほんとにごめんなさい」と思いきり頭を下げた。

「栄介のせいじゃない。もう気にしないで。犯人はきっちり探しだしておとしまえつけさせるから。それより、あなたを守れて良かったよ。あなたが無事で…」と彩は言った。笑おうとしたが顔の筋肉も上手く動かず、上手く笑えなかった。

「笑うのも出来ないのか…」と理亜がぼやくと、

「ごめん…私、ボクシングは多分もう出来ないかもしれない。けど…まだこのまま終われないんだ。だから頑張ってこっちの世界に戻ってきた。だから、生きるために、苦しいだろうけど、リハビリ頑張る」と彩は言った。

「よし、じゃあ、私も頑張らないとね!彩ちゃんのために」とオーナーは言って彩の手を握った。

彩に握り返す力は無いが、彩はオーナーの優しさと温度を手から感じ取った。

「頑張りますんで、オーナー、よろしくお願いいたします」と彩は言った。

「もちろんだよ」とオーナーは優しく微笑んだ。

「あなたってほんとにバカね!けど、私はこんな立派でカッコいい娘を持てて誇りに思うわ」と母は涙を拭いながら言った。

「ありがとう、お母さん、お父さんも!!まだ私は死ねないから」と彩は言った。

父は笑っていた。

「私達もう帰るわね」と母は言って父と共に病室を去って行った。

「オーナー、俺らもそろそろ帰ります。練習戻ります。元気な彩を見れて、安心しましたので」とボスは言って、草津を連れて去って行った。

「紀子、俺ヤバイ。無償に怒りがきてる。どうすればいい?」と理亜が言うと、

「なら、ジムに戻って思いきりサウンドバックでも殴ればいいよ。そしたら少しは楽になるでしょう?私着いていこうか?」と紀子は言って、

「そうしてくるよ。彩、いつでも連絡してこいよ!!俺、練習行くわ」と理亜は言って、去って行った。

取り残された、紀子、栄介、陸、オーナーに、彩は、「私なら大丈夫だから」と言った。

オーナーは「じゃあ、また」と言って、去って行った。

「泣いてもいいんだよ?彩さん。強がらなくても…胸、貸そうか?」と陸が言うと、彩は陸に持たれた。

「私達邪魔かな?二人にしてあげよっか、栄介君」と紀子が言うと、栄介は頷いて二人は病室を後にした。

「ねぇ、陸、私ね、どこまで回復出来るかわからないの。けど、努力だけはしたい。極限まで追い込めば達成感が味わえる。だから、私は努力する!リハビリして、いつかリングの上に立つよ!!楽しみにしてて…」と彩は言って、陸を見つめた。

陸はそんな彩のホッぺに軽いキスをした。

「彩さん、大好き!!俺も一緒に頑張るよ!!彩さんがもう無理だって引退を決めたとき、俺は彩さんを妻にもらいたい。俺のところに永久就職して?」と陸は言った。

「何それ、プロポーズのつもり?まだ早いわよ」と彩は言った。そして、

「その時はちゃんとプロポーズしてね!」と彩は言った。

二人にとって幸せな時間が流れた。

「うん。夢も叶えたいしね!」と陸は笑った。

「俺もそろそろ帰りますね!また来ます」と陸は言って、立ち上がった。

「うん。バイバイ、またね!理亜さんに伝えといて!!余計なことしないようにって。理亜さんのことだから、犯人探しだして絞めちゃったりしそうだし、理亜さん、そんなことしたら相手死んじゃうと思うから…私が何とかするから」と彩が言うと、

「わかった。また栄介がそんな目にあったら俺、どうすればいい?」と陸が聞くと、「大丈夫よ!心配しなくても…」と彩は優しく言った。

陸には彩が笑ってるように見えて、「ありがとう」と言って、去って行った。


その夜、彩はベットの上で思いきり泣いていた。

大好きなボクシングを諦めたくないと。

せっかくプロとして契約したのに、このまま何も出来ずに引退なんて…と思うと、悔しくて、苦しくて、涙が溢れてきた。止まらない涙、比例する想い、彩は一人苦しみながらもがいていた。

数日後、両親は結果を聞きに病院に来た。

「脳挫傷による後遺症で、手足が不自由になってます。リハビリでどこまで回復出来るかわかりませんが、本人の希望を尊重し、プロ復帰を目指せるように、全力で頑張ります」と医者は言った。

そして、両親は「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」と頭を下げた。