ー敦賀side
「なんだ、藤森元気じゃないか……」
廊下を駆ける藤森さんの足音に、地理先生は苦笑いを浮かべた。
「げって………ククッ」
俺を見て「げっ」て………。ますます面白い。本当に、不思議な子だなぁ……
「俺、心配なので、藤森さんの様子見てきます」
「そうか、敦賀、頼んだよ」
地理先生の言葉に頷き、俺は教室を出る。
静まり返る廊下を歩きながら、藤森さんの言葉を思い出した。
『敦賀君は何もしてない、周りが勝手に騒いでるだけ。それを責任に感じる事はないと…思う』
初めてだった。
今まで、誰かと付き合っても、周りからの嫉妬が、俺じゃなくて彼女を標的にした。
告白を断っても、何をしても、口を揃えて女は言う。
『敦賀君は、私だけのモノにはなってくれない』
『敦賀君が完璧すぎるせい』だと……
俺は完璧でも、なんでもない。本気で好きになった女にだって、俺の全てをあげているつもりだった。
『辛いの。だから、一度きりにして……』
あの、悲しげな声と、震える背中をまだ覚えている。
『永遠なんて、希望をもたせないで。さよなら、湊太』
その遠ざかる背中に手を伸ばせなかった。引き留める声すら出なかった。
「俺に…非があると…そうとしか思えなかったからな…」
その〃つもり〃が、大切な女を不安にさせた。全て俺のせいだった。そう、だから、誰のモノにもならないようにしてきた。


