仕事が終わってから、私と奈津は会社の近くにあるバッティングセンターに足を運んだ。
過去に平さんと交際していたという疑惑がある以上、今夜は塩河さんと会う気分にならなかったので、奈津から「バッティングしよう」と誘われたのは好都合だった。
「オラー! かかってこいやー!」
奈津は私の隣で、ボールが飛んでくる度、激しくバットを振っている。ここへ来たいと思ったのも、彼氏と遠距離となったことによるストレスの発散が目的だそうだ。
「奈津、すごいね。私なんて、空振りばっかだよ」
運動が苦手な私にとっては、スローボールでもバットに当てることすら難しかった。
でも、今日はここへ来て正解だった。体を動かすと、気持ちが清々しくなれる。
塩河さんの過去の恋愛のことは、早く乗り越えなきゃ。気にしないようにする。そうするしか道はないのだから――。
私はバッティングを一時中断し、施設にある女子トイレへと向かう。
「あれー? 北東さんじゃないですか?」
トイレから出た直後、誰かに声を掛けられた。
それは企画部の林くんだった。彼の隣には何と、あの平さんもいる。
「奇遇ですね、バッティングセンターで会うなんて。僕も同じ部のお姉さま方に、連れてきてもらったんですよ! 他の人は今、煙草を吸いに行ってますけど」
「あっ、初めてお目にかかります。私、広報部の北東と申します」
私は取り合えず、面識のない平さんに挨拶をする。
「……企画部の平です」
平さんは腕組みをしたまま、私と言葉を交わした。彼女の威圧的な態度は、彼女が塩河さんの元恋人だということを仮定すると、更に私をがっかりとさせる。
