「塩河さんが謝る必要は、何もありません」


 私は後ろめたそうにしている塩河さんを前に、首を左右に振った。


 あれはとても幸せなキスだった。否定的になることは、何一つない。


「ままれちゃん、俺は君のことが好きだ。大好きなんだ。だからどうか、俺と付き合って欲しい。俺の彼女になって欲しい。ままれちゃんのことは、誰にも渡したくない」


 塩河さんが真剣な眼差しのまま、こちらに伝えてくる。


 自分が胸の内に思っていたことを、目の前の塩河さんにそっくりそのまま言われたことが、不思議でむず痒くてたまらない。


「……はい。私で良ければ」


 塩河さんからの告白が、大声で「幸せだ」と叫びたくなるくらい、喜ばしい。


「本当に!? 俺……今、すごく嬉しいよ。ああやばい、嬉しすぎて気絶しそう」


 塩河さんが緩んだ口元を、両手で覆う。甘い顔立ちに似合う、可愛い仕草だ。


「俺なんかで、本当にいいの?」


「私は塩河さんがいいんですよ。優しくて温かくて、頼りになって――塩河さんは、私にはもったいないくらいです」


「やめて、ままれちゃん! 俺、褒められるのには、慣れてないから」


 塩河さんが右手を私の前に突き出し、手のひらをぶんぶんと振ってくる。付き合いたての中高生カップルみたいな塩河さんの初々しい動作が、今は微笑ましく、くすぐったくなる。


「よし! ご飯、食べに行こうか! 今夜は甘いものは抜きね! たまにはそんな日もあって、いいでしょ?」


 塩河さんが気を取り直した様子で言った。


「……はい!」


 私は塩河さんの左腕に、自分の腕を回す。晴れて恋人同士となったことへの、第一歩を歩む。


 私の誕生日まで、いよいよ一ヶ月を切った。


 女の若さの限りは、花に例えられる。女として一つ年を取るのは切ないものがあるけど、今年は浮き立つ思いで自分の誕生日を迎えられそうだ。私の隣に、今日から改めて恋人となった塩河さんがいるならば――。