「あっ!」


 その糸のように細い目と、不自然なまでにつり上がった眉毛を見て、私の名を呼ぶこの彼が誰であるのか、すぐに記憶の中から引き出せすことができた。


 高一と高三の時同じクラスだった、尾藤昇(びとうのぼる)くんだ。


 高校時代の尾藤くんは揉め事を起こしては先生に楯突いていたり、素行の悪い生徒であった。それが今となってはかっちりとした衣装に身を包んでいるのだから、歳月をしみじみと感じるものだ。


「この近くで、働いてんの?」


「うん、そこの会社。尾藤くんは?」


「俺、こないだまで鳶職してたんだけど、最近営業マンになった」


 尾藤くんが焼けた肌には目立つ白い歯を見せて、ネクタイを触る。


「そのスーツ、なかなか似合ってるよ」


「……こちらは、彼氏?」


 尾藤くんは私の隣にいる塩河さんを気にした。