「ねぇ、ここ!縁結びの神様だって!!」
しばらく歩いていると、きみは立ち止まり神社の片隅を指差した。
指先の方向には2つの大きな石が寄り添うように置かれている。
『夫婦岩』とかいうやつか。
「ちょっとここもお参りしよ!」
俺の返事も待たずに、きみはどんどん俺を引っ張る。
岩の前に立つと、きみはお賽銭を入れて、真剣な表情で、手を合わせ始めた。
俺もきみを真似て、手を合わせる。
願うことなんて、ただひとつ。
神様お願いします、と一礼したあともまだきみは手を合わせ続けていた。
あんまり真剣な表情だったから、きみが一礼したあと、思わず聞いてしまった。
「何をそんなに願ってたんだ?」
縁結びの神様に真剣に願うことって?
もしかして、俺なんかよりもっとずっと素敵なひとにめぐり逢いますように、とか?
一瞬不安になって、きみの瞳を覗き込むと、きみは屈託のない笑顔を見せた。
「将来、教師になった自分に出逢えますように、って」
あまりにきみらしい願いごとに、思わず笑ってしまった。
「なんで、笑うの!やっぱり、縁結びの神様にまで合格祈願するのは可笑しい??」
「いや。ほんとにきみらしい願いごとだったから」
「輝こそ、どんな願いごとしてたの?」
無垢な瞳が俺を見ている。
伝えようか迷ったけれど、今日は珍しく素直に答えることにした。
居るかわからない神様なんかより、俺の願いはきみに知っていて貰いたかったから。
「きみの幸せを願ったんだよ」
「え?」
予想外の答えだったのだろうか?
きみは驚いた顔をした。
「私の幸せ?」
「うん」
きみが幸せでいてくれればいい。
全身から放たれる幸せの香りが俺にとっては、何よりも幸せだから。
ま、そんな歯の浮きそうなセリフ言わないけど。
「じゃあ、私も願う」
きみはさっきしまった財布をカバンから出して、お賽銭を入れた。
「工藤輝が幸せでありますように」
声に出してそう言ったきみの願い、神様は聞いてくれていたかな?
きみが幸せなら、俺も幸せだ。
だから、俺はずっと、きみの幸せを願ってる。