そらと夏の日

このままでは、手だけでなく、うみのぜんぶが透明になってしまいそうな予感がしたのです。

うみは、戸惑うそらを見つめて、やさしく笑いました。それはなんだかさびしそうな、けれど無邪気で幸福な微笑みでした。

「ぼく、もう帰らなきゃ」

そらは、何故だか胸騒ぎがしました。 うみが、どこかへ行ってしまう。そらの知らない、どこかへ。

「うみ、待って。まだ一緒にいようよ」

あせって、うみを引き留めようとするそらに、うみは黙って首を横に振りました。その姿に、そらはますます戸惑います。

「あのね、そら。今日、きみと会えてよかった。すごく楽しかった」
「そらもだよ。そらも楽しかった。見たことないもの、いっぱい知れたもん。うみのおかげだよ」

だから、まだ一緒にいよう。
無理なら、また遊ぼう。

そう言おうとしましたが、うみが先に口を開きました。

「ぼくに、名前をくれてありがとう。そら、覚えててね。きみはひとりじゃないんだ。この世界の、だれもぼくを知らなくても、きみがぼくを忘れても、ぼくはずっときみのそばにいるよ」

うみが、そらに明るく笑いかけます。そらには、うみが言っている意味がよくわかりませんでしたが、うみが自分から離れようとしていることだけはわかりました。
繋がるふたつの手のうち、うみの手だけが、消えようとしています。そらは怖くなって、どうにかしたくて、けれどどうにもできません。