絶対主従関係。-俺様なアイツ-

「全く、仕事ひとつできねぇのに時間も守れないのかよ」


 ……我慢、我慢っ!

奥歯をかみ締めて、あたしは目を閉じて聞き流すように耐えた。


「本当に“あいつ”とは……っ」


 何気ないアイツの小言だったのだと思う。


 けれどそれを口にした瞬間、ミカドが言葉を詰まらせた。

だって、あたしもそれを聞いてはいけない気がしていた。


 ミカドのいう“あいつ”。

それは、ただ一人しかいないと……知ってしまったから。


 ぐっと拳に力が入る。

切なげな横顔は、端麗な顔立ちをさらに引き立たせるよう。


 だから、そんな似合わない表情しないでよ。


「…ど、どうせ、あたしは不器用ですよーっだ!」

「わ、わかってんじゃねぇか!」


 こんな憎まれ口しかいえないあたしは、相当不器用だけれどね。

ぷん、と顔を背けた先にあったのは、背の高いラックにつるされたタキシード。


「んん?なに、あれ…」


 今朝、この部屋に来たときには、こんなものなかった。


 歩み寄って袖口を手にしてみる。

きめ細かい材質で作られたのか、柔らかな感触でほお擦りしたくなるほどキモチがいい。


そんなあたしに気づいたのか、ミカドはふんっと鼻を鳴らして、自慢気に口にする。


「衣装だよ、文化祭の」

 いつの間にかすぐ後ろまでやってきていたミカド。

何気ない立ち姿なのに、どうしてか絵画のように見えてしまうのは、きっとあたしだけじゃないはずだ。