絶対主従関係。-俺様なアイツ-

 皇さまのお言葉添えも効いたみたいだ。

少し視線をずらすと「ほらね」といわんばかりに皇さまは微笑む。


 やっぱり彼の笑顔は、心臓に悪い。

そして、後押しをするように、皇さまはすっと指を廊下の奥へと差した。


「帝なら…さっき自室に戻ったみたいだよ」


 善は急げ、といわんばかり。

主任の小言から逃れるためにも、あたしはペコリとお辞儀をする。


「い、今言ってきます!」

 くるりと背を向けて、あたしはあの板チョコみたいな扉を目指した。



 ───あれから、紅葉さんからも皇さまからも、あの話はでてこない。

二人ともなにもなかったように振舞って、決して口にはしない。


正直、あたし自身、受け止め切れていないこともあって、どこかほっとしているのも事実だった。


 けれど。

いつかきっと……話してくれるはずだ。


それまでにあたしも覚悟を決めないと。


 
 息をそっと整え、コンコン、と乾いた音を響かせて上質な扉をノックする。

「失礼しま……」

「おっせぇーよ!」

 こっそり入ったあたしは、早々に怒鳴られる。

震わせた肩でそっと見上げると、不機嫌そうなアイツ。


ムッ、としながらも、平常心を装った。


「……申し訳、ありません」


 我慢、我慢。

もうそれは、あたしにとって毎日行う呪文みたいなものだ。