振ってきた声にゆっくり瞼を押しあげると、そこには淋しそうに──でも、どこかイタズラに笑う。


 ミカド……?


 きょとんとするあたしの隣に、ぽすんと横倒れになるアイツ。


「ちょっと、そこにいろ」


「…は、はあっ?」


 あたしの疑問もおざなりに、アイツは魅惑的な黒い瞳をそっと閉じた。

ぐっと肩を寄せるようにかぶさるすこし熱い腕。


「ちょ、ちょっと……っ」


 押し返そうとしても、余計に力を入れられてさらに身動きが取れなくなった。

あたしは動けない体を諦めて、雲みたくやわらかい布団の上で広い天井を見つめていた。


「……くう…」

 ふと静かに聞こえてきた寝息。

いつの間にかそのまま眠りについた、あどけない寝顔のアイツだ。


「まったく、もう……」


 大人っぽい顔で、わがままばっかり言っていた。

自分のことしか考えていないと思っていたアイツは、ただ、行き場のない想いをどうしていいかわからなかっただけなんだ。


それはほんの少し、わかる気がした。



 早くこの仕事を辞めて、お父さんと暮らしたい。

そう、思っていたのだけど──


 見た目は確かに極上で、凛とした瞳も大人顔負けかもしれない。

けれど、自分の気持ちを表現するのが極端に下手なミカドを……


あたしは放っておけない。



「……まだ、辞めないから」

 あたしはそっとつぶやいて、その太い腕から抜け出した。