絶対主従関係。-俺様なアイツ-

 朝の食卓は、アイツと皇さまに増えた。

けれど、部屋の中は人数にかかわらずやけに静かなのが、あたしはいたたまれない。


 しれっとした顔で食事しても、おいしいのかな?

逆に、せまくてひもじいメニューだったけれど、お父さんと焼き魚を取り合ったりしたあの頃が、とても幸せのひと時に感じた。


「じゃあ、紅葉さん。あたしはそろそろ…」

 チラリと時計を見やり、軽く会釈をする。


「ええ、そうね。いってらっしゃい」

 小花を飛ばすような笑顔は、不思議と癒される。

主任にも声をかけ、あたしは大慌てで着替えて屋敷を飛び出なければならない。


すこし小走りで部屋を抜けようとしたときだった。


「愛子ちゃん、学校?」

 静かなトーンで背後から声をかけてきたのは、皇さま。

くるりと振り返り、時間がないことに焦りながらもにっこり笑ってみせる。


「ええ、すみませんが、お先に失礼します」

 紅葉さん風に、と心がけてみた。

もう一度お辞儀をして走ろうとしたけれど、また更に声がかかる。


「よかったら、送っていくよ?」

 今日、学校に用があるんだよね、と太すぎない手首に光る時計をチラリと見ていた。

あたしはそんな優しい言葉、アイツにかけられたことがない。


「あ、あの…いえ、大丈夫ですよ!」

 慌てて手をピンと伸ばし断るも、すでに席を立ってしまった皇さま。


「準備が出来たら表で待ってて?」


 そんな優しい微笑をむけられたら……


きゅうん、と子犬が鳴くみたいに、胸が締め付けられる。



「あ、ありがとうございます…」