皇さまを『優しい方』と表現されたけど。

その意味は今のあたしならわかる。


しかし、その後あたしには忌まわしい事件がおきたにもかかわらず!

アイツをも『優しい方』と言い張った。


「愛子さん、聞いてる?」


 怒ってもカワイイです、紅葉さん。

という本心は言わずに、しおらしく「すみません」って謝っておいた。


「じゃあ、後はよろしくね?」

 ニコっと顔をゆるめた紅葉さんに軽く頷き、温まったカップにハーブティを注ぐ。

ふわりと鼻腔をくすぐる湯気を、あたしが一気に吸い込む。


こんな贅沢、きっと元の生活に戻ったら味わえないもの。


「ん~、いい香り」

「愛子さん、あなたのじゃないからね?」

 あたしの先輩を、再びチラリと上目遣いで頬を膨らませてしまった。

あはは、と乾いた笑いを交えながら、誤魔化しておいたけどね。


「失礼しまーす」

 急に布団に連れ込まれたのは、あの最初の朝だけ。

あれから数回の朝を迎えたけれど、あんなことになったのはあの日だけだった。


全く、コレじゃぁ本当に寝ぼけていたみたいじゃない。


「ハーブティですよー」

「愛子さん、語尾は伸ばさないのっ」


 どうも牛丼屋のクセが直らず。

屋敷でも先生みたいなことを注意されてしまう。


っていうか、コイツは尊敬できる人でもないし、ましてや天敵だ。



 丁寧に話せるか、っつの!