関係?………最悪。


って答えたいところなんだけど。



「愛子ちゃん、今日もご苦労様」


 アイツと同じ艶のある黒い毛先を遊ばせて、目じりの下がった微笑みを頂く。

それは結構…イヤではない。


「おっ、おはようございます!……皇さま…」


 挨拶は元気なんだけども、ふと急に語尾が小さくなる。


 やっぱりなんだか名前とさらに『さま』とつける呼び方は、どうにも性分に合わないらしい。

住み込みを始めて一週間たってもむず痒いキモチだった。


 そんな小さな恥じらいも包むように、彼は──皇さまは笑う。


「帝のこと、よろしくね?」


 天使みたいな笑顔で、悪魔みたいなことを口にする。


 アイツのことなんか頼まれたくない!

けれど、あたしの嫌悪は伝えられず、引きつった笑顔で了承するしかないのだ。


なんたって、彼は……『藤堂 皇』さまなのだから。


 しぶしぶと、朝の日課、ミカドを起こすことからあたしの業務は始まる。

まだ紅葉さんはついてきてくれるけど、初日以降は全てあたしに作業をさせる。


「愛子さん、カップをお湯で温めておくのよ?それに……」

 説明する紅葉さんの瞳は、どこか楽しげ。

長い睫をすこし伏せる横顔に、皇さまの話を聞いたときの表情を思い出した。