「申し訳ありません。彼女は、昨日からこちらでお世話になりはじめたばかりなので……」 

「え、涼原さんが?」


 紅葉さんは丁寧に『彼』へと説明をしている。

それはとても自然な光景に見えて。



 すっごく、嫌な汗が体中から吹き出ていた。


だって、二人の会話から連鎖されるのは───


「学校で会ったんだけどね~、全然気付かなかったな」


 『彼』が───



「もう、皇さまったら……」


 皇さま、ということ。




 困ったように笑う紅葉さんの隣で、『彼』はイタズラに微笑んでいる。

あたしの心を惑わせるには、十分すぎるほどの笑顔で。



「よろしくね、涼原さん?」


 あたしの染まりかけた薄紅色の乙女心は、どうやら断崖絶壁へと立たされているようだ。




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