きゅっとカバンの取っ手を握り締め、肩をすぼませる。
イマイチ、肩身が狭い想いなのはあたしだけだろうか?
しかし、こっそり呟いたはずなのに、奥のほうから人がやってくる。
「お帰りなさい、愛子さん」
ふんわり、と笑って出迎えてくれたのは、紅葉さんだった。
鬼みたいな主任でなかったことにホッと一安心。
「あの、紅葉さん……主任は?」
すこしふくよかで、あたしたちの作業着のリボンは赤なのに、一人緑色の主任。
接客業のバイトをしていたあたしすらも太刀打ちできないほどの気配り。
さすがプロ、と思わずにはいられない人。
…怒ると怖いけど。
そんなチャキチャキ動き回る、その主任が見当たらないのだ。
「皇さまがお帰りになられたので、お話をされてるけど…。何かご用?」
上品に笑う紅葉さん。
どうしてこの屋敷で住み込みの使用人をしているのか、不思議なくらいだ。
「実は、バイト先変更の件で、学校に提出しなくちゃならない書類があって……」
書類には、上司や雇用主といった、とにかく少しでも決定権をもっている人の印鑑が必要だ。
この藤堂家の主・藤堂優雅さまは仕事でほとんど家におらず、奥様もそのお手伝いで顔を見せない。
────らしい。
というのも、あたしはなにせ会ったことがないからだ。
どんな状態で雇用契約を結んだのか、それはきっと優雅さまとうちの父にしかわからないのかもしれない。
イマイチ、肩身が狭い想いなのはあたしだけだろうか?
しかし、こっそり呟いたはずなのに、奥のほうから人がやってくる。
「お帰りなさい、愛子さん」
ふんわり、と笑って出迎えてくれたのは、紅葉さんだった。
鬼みたいな主任でなかったことにホッと一安心。
「あの、紅葉さん……主任は?」
すこしふくよかで、あたしたちの作業着のリボンは赤なのに、一人緑色の主任。
接客業のバイトをしていたあたしすらも太刀打ちできないほどの気配り。
さすがプロ、と思わずにはいられない人。
…怒ると怖いけど。
そんなチャキチャキ動き回る、その主任が見当たらないのだ。
「皇さまがお帰りになられたので、お話をされてるけど…。何かご用?」
上品に笑う紅葉さん。
どうしてこの屋敷で住み込みの使用人をしているのか、不思議なくらいだ。
「実は、バイト先変更の件で、学校に提出しなくちゃならない書類があって……」
書類には、上司や雇用主といった、とにかく少しでも決定権をもっている人の印鑑が必要だ。
この藤堂家の主・藤堂優雅さまは仕事でほとんど家におらず、奥様もそのお手伝いで顔を見せない。
────らしい。
というのも、あたしはなにせ会ったことがないからだ。
どんな状態で雇用契約を結んだのか、それはきっと優雅さまとうちの父にしかわからないのかもしれない。


