絶対主従関係。-俺様なアイツ-

 廊下の奥からは、笑い声が響く。

あたしはシンとした静まりかえった階段に、腰を下ろしていた。


 ひんやりとした鉄の温度をお尻で感じながらも、溢れる涙のせいで上昇する体温はちょうどよかったのかもしれない。


「落ち着いた?」

「……すみません、あたし…」

 彼は、何も聞かないでいてくれた。

もしかしたら、尋ねるタイミングを見ていたのかもしれないけど。


ただ隣にいてくれただけで、ココロがほっとしたんだ。


「うん、君が笑ってくれたならいいんだ」


 漆黒の毛先を惑わすように揺らし、それはもう、ヒマワリさえも狂い咲いてしまいそうな笑顔。

サラリ、と、胸を射ぬくようなことを口にしてしまう。


 そんな彼を目の当たりにして、再び、トクン、と胸を打つ。


「ずるいです……」

「んん?なに?」


 ぽそりと呟いたのに、わざとなのか天然なのか、聞き返してくる。

スーツなのに、一緒になって階段に座り込んでくれた姿は、外からみたら常識外かもしれない。

けど、そんなことで彼に文句を言う人がいたら、あたしは精一杯否定してやるんだ。


 覗きこんできた彼に軽く首を横に振ると、きゅっと唇を締める。


「……元気、でました」


 こんな弱気な姿、あたしらしくないもの。


「そう?」

 クスリと笑いを零して目を細めた彼の大きな手のひらは、眉の上でそろったあたしの前髪を撫でる。

髪から伝わる温度が、無性に熱く。