絶対主従関係。-俺様なアイツ-

 ふと緩められた視線に、はっと気づく。

ごしごしと手の甲で目の下を拭いて、慌てて笑ってみせた。


「いえ、なんでも……っ」

 こんな顔みせておいて、矛盾してる。

きっと、あたしのことなんて話しても、彼にはきっと理解できないはずだから。


彼みたいな、整えられた人には───


 そのまま横を通り過ぎようとした。

その刹那、おっとりとした声音が耳を撫でた。


そして、その彼へのイメージ通り、大きな手のひらがあたしの頭にそっと舞い降りる。


「……僕の知ってる人でもね、泣きながら『何でもない』っていう人がいるんだ」


 なんでこの人は、こんなに優しいんだろう。

口を開いたら、きっとそれしか出ないから。


それでも黙っていたら、耐えられずに溢れたのは涙だった。



 遠くでチャイムの音が鳴る。

奨学生のあたしは、素行はマジメにしておかなくてはならない。


 だけれども───



「どうしたの?」

 再び優しく笑いかける彼を、今度は隠さず視続けた。


「あ、…あたし……っ」


 涙のダムを壊したのは力任せでもない、あったかい腕でもない。


すうっと稀に夏に吹く涼しい風みたいな、優しい声だった。



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