絶対主従関係。-俺様なアイツ-

 教室も通り過ぎて、あたしはどこに行っていいかもわからなかった。

なのに、夢中で廊下を走りぬけた。


「……はあっ……はぁ」


 お金のために、あたしとお父さんは離れなくちゃならないのに。

目頭だけ火傷したんじゃないかと錯覚しそうなくらい、熱い。


 泣きたくない……けど、泣きたい。


矛盾があたしの足を動かせた。


 視界の端っこに飛び込んできた階段。


上ろうか、下ろうか。

それすらも決めずに走りこんだ。


でも、不可抗力で足を止めてしまった。


「あっ……と」


 ゆらりと影から出てきた人。

足元しか見てなかったから急に止まれなくて、突き倒すほどではないけれど、ぶつかってしまった。


あわてて目元を拭い、顔も見ずペコリと頭を下げる。


「ご、ごめんなさ──」

「あれ、スズハラさん?」


 え?


まさか名前を呼ばれるなんて思ってなくて、ふと顔をあげる。


そこには、影すらも包み込んでしまいそうな、優しい笑顔。


「さっき、先生と話してた……」 


 予想外の人がいたから、あたしは言葉を失っていた。

けれど彼もあたしの顔を見るなり、目をぱっちりと見開く。


「どうかした?」