絶対主従関係。-俺様なアイツ-

「違うわ、愛子さんっ」

「……へ?」

 怒りに打ち震えていたあたし。

けれど反応するかのように返ってきたのは、いつもより少しだけ大きな声だった。


 そんなに力強く否定されるなんて思わなくて、あたしは逆に気が抜けてしまう。

それに気づいた紅葉さんも、すこし頬を赤らめて俯いてしまった。


「あ、えと、帝さまもお優しい方だから……」


 ……なんか、違和感。


 なんとなく言いづらそうにする紅葉さんの様子に、あたしは兼ねてからの疑問を口にした。


「紅葉さん、アイツとなんかあったんですか?」

「えっ…?」


「普通、あんなことされても優しいだなんて思えませんけど」

 覗きこんだ紅葉さんの顔は、とても複雑な色を浮かべている。

桃色の唇はもごもごと微かに震えていた。


「……わ、私は、帝さまにも優しくしていただいたことがあるから……」


 ───優しく? アイツが?

思わず、はんって鼻で笑いそうになった。


そんなあたしのすぐ隣には、再び鬼の顔した主任。


「紅葉さんと愛子さん! 口より手を動かして!」

「す、すみませんっ」


 ペコリと素直に腰を折る紅葉さん。

あたしも続こうとしたのだけど、主任がはあ、とため息をついて手を腰に当てた。


「愛子さん。朝はこれでいいから、あなたも支度なさい」