絶対主従関係。-俺様なアイツ-

 口をぱくぱくさせて固まったあたしを、紅葉さんは優しく手を取ってくれた。


「帝さまは、すこし言葉足らずなお方です。けれど、心の奥は……とても、優しいの」


 ふ、と目を細めた紅葉さんに見とれかけて我に返る。


「紅葉さん?優しいって言うのは紅葉さんみたいなヒトのことを言うんですよ?」


 もしかしたら、このヒトはかなり天然なのかもしれない。

あのミカドを『優しい』だなんていえるのは、きっと彼女くらい。


そんな紅葉さんは、もしかしたらアイツにたぶらかされているのかも知れないわ。



 助けてあげられるのは、きっとあたしだけだ!



 仕事と紅葉さんのためならば、仕方ない。

気合をぐっといれ、相変わらずニコニコする紅葉さんの後をついて行った。




 まるで美術館みたく長い廊下には、大きな窓が続く。

燦々と温かい日差しは、非日常だ。


ふかふかの絨毯が敷き詰められた廊下をどれくらい歩いただろうか、まだかなぁ?なんて思っていた矢先に紅葉さんの足は止まる。


 一際クラシックなブラウンの、まるで板チョコみたいな扉。

その前で、紅葉さんは誰も見ていないのに一礼して手を軽く丸めた。


「帝さま」

 コンコン、と軽すぎない音を立て、静かに返事を待つ。


「帝さま、起床の時間でございます」

 また更に優しいノックとともに、丁寧に紅葉さんは声を出す。


ようやく「…うぅん……」と、それはそれは気だるそうに。

そして、なんとなく色っぽくかんじる声が漏れてきた。